【生活】「持ち家社会は、日本の伝統ではありません」 日本人の新築持ち家志向、裏側には「政治」が関係? 新聞の折り込みチラシには、新築住宅の広告がよく入る。「上質な暮らし マンション堂々完成」とか、「宅地分譲開始 都心へ20分」とか。私も、そんな文句に釣られて家を買ったクチだ。神戸大大学院法学研究科教授の砂原庸介さん(40)は昨年、「新築がお好きですか?」という研究書を出版した。日本人の新築持ち家志向の裏側には、なんと「政治」が関係しているという。本当ですか、砂原さん?(武藤邦生) −政治学者が住宅の本を書く。少し変わった組み合わせのようにも思います。 「2012年に出版した新書『大阪』の研究過程で大阪市の発展を調べ、都市の拡大には住宅が大きな課題となることを認識しました。個人的にも、なぜ家にこんなにお金をかけなければいけないのか、という思いが強かった」 −日本の住宅の特徴として、持ち家、しかも新築の傾向が強いことを指摘しています。 「『住宅すごろく』と呼ばれてきたように、日本では最終的に庭付き一戸建てを購入する人生が、望ましいとされがちでした。でも、好きで新築を買うのかといえば、一概には言えない。賃貸住宅はワンルームならいくらでもあるのに、家族向けの物件は少なく、家賃も割高です。中古住宅は市場が不完全で、優良な物件を見極めるための情報が少ない。結果、賃貸や中古の選択肢はほとんどなく、割安で、安心感のある新築をなんとなく選ぶ傾向が強まります」 −今秋の消費税増税対策として、住宅ローン減税が拡充の見通しです。政策的にも、家を持たせようという意図が見えます。 「持ち家社会は、必ずしも日本の伝統ではありません。1970年代半ばまで政府の方針は公営住宅、公団住宅の整備による、公的な賃貸住宅の充実でした。個人の持ち家に公費を投入して拡大させる考えは、あまり強くはなかった。高度成長が終わり、公的賃貸住宅の整備が滞る中で、住宅の取得を推奨する政策に転じ、低金利融資や住宅ローン減税を充実させた。こうした政策や規範、慣習など、広い意味での『制度』によって日本特有の持ち家社会がつくられた、というのが私の考えです」 −新築持ち家社会はこれからも続きますか。 「いや、持続しないでしょう。過去に開発されたニュータウンが寂れてゆく状況が、全国で起きています。まちをつくり、30年程度で使いつぶしてしまっている。焼き畑をしているようなものです」 −では、持続可能な住宅のかたちとは? 「中古住宅を使い回すしかないでしょう。子どもが独立し、高齢夫婦が広い家を持て余す、というのは、よくある話です。ライフスタイルに応じた住居を選択できれば、暮らしの水準は上げやすい。そのためには中古市場を機能させ、自宅を適正な価格で売却できる環境が必要です。建てるにしても、次に使う人を想定し、誰もが使える家を考える必要がある。時間を超えて複数の人に利用される『コモンズ』として住宅を扱うことができないか−。最近は、そうした観点からも研究しています」 −変化の兆しはありますか。 「あるんじゃないですか。都市近郊で住みやすい場所は、すでに開発され尽くしています。新築より中古のほうがいい住宅が買える、と考える人が増えれば、状況は変わってくるはずです」 −政治は、どのように住宅にかかわってゆくべきでしょうか。 「昨年夏まで2年間、在外研究で滞在したカナダ・バンクーバーでは『よい住宅を提供するのは政府の義務だ』というニュースが連日、流れていました。住宅に補助金を出せ、というのではない。長期的に住宅の水準を上げる努力を政府はせよ、という主張です」 「日本においても、誰もがそれなりの住宅に、それなりの価格で住む権利があると思う。そのためには『中古住宅が適正な価格で売れる』という感覚が広がることが重要です。新築持ち家の意識は根強いですが、人々の行動を促す、そうした『期待』をつくるのが、政府の仕事だと考えています」【すなはら・ようすけ】1978年大阪府生まれ。灘中学・高校卒。2006年、東京大大学院博士後期課程単位取得退学。17年から現職。「大阪」(中公新書)でサントリー学芸賞。兵庫県西宮市在住。神戸新聞NEXT 2019/1/27 10:41 https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201901/0012013569.shtml神戸大大学院法学研究科教授、砂原庸介さん=神戸市灘区、神戸大学(撮影・斎藤雅志)
【生活】「持ち家社会は、日本の伝統ではありません」 日本人の新築持ち家志向、裏側には「政治」が関係?
新聞の折り込みチラシには、新築住宅の広告がよく入る。「上質な暮らし マンション堂々完成」とか、「宅地分譲開始 都心へ20分」とか。私も、そんな文句に釣られて家を買ったクチだ。神戸大大学院法学研究科教授の砂原庸介さん(40)は昨年、「新築がお好きですか?」という研究書を出版した。日本人の新築持ち家志向の裏側には、なんと「政治」が関係しているという。本当ですか、砂原さん?(武藤邦生)
−政治学者が住宅の本を書く。少し変わった組み合わせのようにも思います。
「2012年に出版した新書『大阪』の研究過程で大阪市の発展を調べ、都市の拡大には住宅が大きな課題となることを認識しました。個人的にも、なぜ家にこんなにお金をかけなければいけないのか、という思いが強かった」
−日本の住宅の特徴として、持ち家、しかも新築の傾向が強いことを指摘しています。
「『住宅すごろく』と呼ばれてきたように、日本では最終的に庭付き一戸建てを購入する人生が、望ましいとされがちでした。でも、好きで新築を買うのかといえば、一概には言えない。賃貸住宅はワンルームならいくらでもあるのに、家族向けの物件は少なく、家賃も割高です。中古住宅は市場が不完全で、優良な物件を見極めるための情報が少ない。結果、賃貸や中古の選択肢はほとんどなく、割安で、安心感のある新築をなんとなく選ぶ傾向が強まります」
−今秋の消費税増税対策として、住宅ローン減税が拡充の見通しです。政策的にも、家を持たせようという意図が見えます。
「持ち家社会は、必ずしも日本の伝統ではありません。1970年代半ばまで政府の方針は公営住宅、公団住宅の整備による、公的な賃貸住宅の充実でした。個人の持ち家に公費を投入して拡大させる考えは、あまり強くはなかった。高度成長が終わり、公的賃貸住宅の整備が滞る中で、住宅の取得を推奨する政策に転じ、低金利融資や住宅ローン減税を充実させた。こうした政策や規範、慣習など、広い意味での『制度』によって日本特有の持ち家社会がつくられた、というのが私の考えです」
−新築持ち家社会はこれからも続きますか。
「いや、持続しないでしょう。過去に開発されたニュータウンが寂れてゆく状況が、全国で起きています。まちをつくり、30年程度で使いつぶしてしまっている。焼き畑をしているようなものです」
−では、持続可能な住宅のかたちとは?
「中古住宅を使い回すしかないでしょう。子どもが独立し、高齢夫婦が広い家を持て余す、というのは、よくある話です。ライフスタイルに応じた住居を選択できれば、暮らしの水準は上げやすい。そのためには中古市場を機能させ、自宅を適正な価格で売却できる環境が必要です。建てるにしても、次に使う人を想定し、誰もが使える家を考える必要がある。時間を超えて複数の人に利用される『コモンズ』として住宅を扱うことができないか−。最近は、そうした観点からも研究しています」
−変化の兆しはありますか。
「あるんじゃないですか。都市近郊で住みやすい場所は、すでに開発され尽くしています。新築より中古のほうがいい住宅が買える、と考える人が増えれば、状況は変わってくるはずです」
−政治は、どのように住宅にかかわってゆくべきでしょうか。
「昨年夏まで2年間、在外研究で滞在したカナダ・バンクーバーでは『よい住宅を提供するのは政府の義務だ』というニュースが連日、流れていました。住宅に補助金を出せ、というのではない。長期的に住宅の水準を上げる努力を政府はせよ、という主張です」
「日本においても、誰もがそれなりの住宅に、それなりの価格で住む権利があると思う。そのためには『中古住宅が適正な価格で売れる』という感覚が広がることが重要です。新築持ち家の意識は根強いですが、人々の行動を促す、そうした『期待』をつくるのが、政府の仕事だと考えています」
【すなはら・ようすけ】1978年大阪府生まれ。灘中学・高校卒。2006年、東京大大学院博士後期課程単位取得退学。17年から現職。「大阪」(中公新書)でサントリー学芸賞。兵庫県西宮市在住。
神戸新聞NEXT 2019/1/27 10:41
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201901/0012013569.shtml
神戸大大学院法学研究科教授、砂原庸介さん=神戸市灘区、神戸大学(撮影・斎藤雅志)